COLUMN
#DAJ原料を巡る旅
「利島の椿油」
デイリーアロマジャパンでは、定期的に原料メーカーや、生産地を訪問しています。 実際に目で見てきた生産風景や原料が育まれてきた気候、訪問先でお聞きした生産者の声を『原料を巡る旅』と題したコラムとして連載しております。
日本一の生産量を誇っている椿油を求めて利島へ
今回訪れたのは東京都に属する伊豆諸島の小さな島「利島」村。利島は東京から南に約140kmに位置し、周囲約8km、面積4.1㎢と、伊豆七島の中でも一番小さな島です。
海底火山の噴火によってできた利島には砂浜はなく断崖絶壁に囲まれており、入江もないため、岸壁に高い波しぶきを打ち上げます。
稲作を始め、農業に不向きであった利島では、米を年貢で納めることが出来ず、様々な試行錯誤を繰り返したのち、椿栽培による椿油の生産に辿り着いたと考えられ、その歴史は江戸時代以前にさかのぼります。
古くから島民のたゆまぬ努力により育てられた椿は、あまり知られていませんが、島の80%を覆うほどの広い土地で育てられており、椿油の生産量は日本一を誇ります。
日本一の椿油を求めて、東京利島へお邪魔させていただきました。
東京竹芝ふ頭より利島へ
竹芝ふ頭から出航しているジェット船に乗り大島へ向かいます。
ただ速いだけの船なのかと思っていたら普通の船とは異なり、なんとジェット航空機から生まれた船で空気のかわりに海水から揚力を得て飛び、船の一部が海上へ上がった状態で移動を行います。
それによりスピードも出ますし安定性もあるので思っていたよりは揺れませんでした。
しかし船が大島に近づくにつれて、、、
出航から順調で穏やかだった海は徐々に変わりつつありました。
撮った写真だとわかりにくいのですが大島に近づくにつれてものすごく揺れました。例えるならジェットコースターより迫力があるように感じました。
無事にたどり着くことができるのか?と不安を感じていましたが着岸には問題が無いようです。
あまりにもひどい時だと引き返すことがあります。そんな激しい揺れ方の時は今回の揺れと比べてどれだけ大きいのか!?そんな恐ろしい事は体験したくありません。
今回の行程:
ジェット船
東京出発/8:10発⇒大島到着/10:15
ヘリコプター
大島出発/11:50発⇒利島到着/12:00
大島に無事到着しその後はヘリポートへ向かいます。
余裕があったのでゆっくり向かったのですが、実は飛行機に乗るときと同じように30分ほど前にチェックインが必要で、手荷物検査もあり、ギリギリ乗せてもらうことが出来ました。
ヘリコプターは船で直接利島に向かうよりも就航率は高いようですが、もちろん飛行するのにもひどい雨の日には飛ぶことが出来ないのです。利島に向かうにはどのルートで訪れるにしても天気予報のチェックは欠かせません。
そして人生初のヘリコプター!
飛び立つ瞬間はあまり実感がわかないのですがみるみるうちに上空に上がっていき海を渡っていきます。
上から見る海の様子は波や渦模様など今まで見たこともない風景でした。晴れの日であればもっときれいだったかと考えてしまいます。感動しつつも少し残念な気持ちでいる間に到着です。
ヘリコプターに乗ると大島から利島まではわずか10分ほどで到着します。
一日一往復するのが通常運行で、島の方は都内に来る時にはヘリコプターを予約をして新幹線感覚で使用していると聞き感覚の違いにも驚きました。
利島の街並み
まずは民宿に荷物を置きに行きました。
利島にはホテルなどはなく、泊まるところは民宿のみになっています。ヘリコプターは1日1往復の為日帰りで利島に訪れることは難しいので民宿の予約は必須になります。
チェックインも済みしばらくしていると雨も落ち着きましたので、少しあたりを散策してみることにしました。
道は狭いところも多く、曲がりくねった道や物静かな雰囲気など映画の世界にも出てきそうな感じでした。スーパーもなく個人商店が数店舗あり、そこで必要なものなどは購入されているようです。
椿の木もいたるところにあり、この写真に写っている木も椿の木なのです。
今回の訪問は2月中旬頃ですでに椿の花が地面に落ち始めていましたが、1月~2月上旬の満開の季節にも一度訪れてみたいです。
JA農協へ
東京島しょ農業協同組合 利島店に伺いお話を聞けました。
利島の人口は約300人と少なく、ここ何年も変わっていないようです。人が少ない為ご近所付き合いもよくのどかな暮らしが残っています。
主な産業は椿油で島の実を100%使った椿油は品質がとても良く生産量は日本一!
漁業も盛んで伊勢海老やサザエは利島を代表する海産物でサイズも大きいとのことでした。
利島村郷土資料館
郷土資料館では過去の採油の仕方や資料が拝見できます。
昔から使われていた採油の為の道具や椿油の全国生産量の記載がある資料もありました。過去の資料を見ていくと東京都での椿油の生産量が90%を超えている年度も数多くあり、昔から日本一の生産量を誇っていることがわかります。
2020年度は台風が多く実が落ちてしまい採油量も少なく一斗缶で180缶ほどでしたが、12年前ですと1,600缶取れていたそうです。
利島の椿油はオレイン酸の含有量が約80%と多く、肌なじみの良さが特徴の一つです。歴史も長く江戸時代から年貢として椿油を納めていました。
今では40件ほどの農家さん達が拾い集めて、ある程度溜まったら一ケ所の工場にて採油を行っています。
利島と言えば椿産業といわれるほどに江戸時代から今日までの200年以上に渡って椿油を生産しており、現在では島全体で20万本の椿があります。
椿畑へ
山全体には椿が広がっており、信号もない細い道を車でどんどん進んでいきました。
漠然と広い畑を想像していましたが、実際は山の中の一部に椿が生えていてどこからどこまでが畑の区域なのか見分けはつきませんでした。
今の時期はもう地面に椿の花が落ちてしまっていますが、落ちた花がまるで絨毯のようでこれはこれでキレイな様子です。
雑草や枝などは落ちておらず、木の下はとてもきれいに整備されていて、少しでも種を見つけやすくするように工夫されています。
山の中には椿の花がたくさん咲いていましたが地面にも落ちている花も多く見られました。
台風の上陸があった為咲いている椿の花の数は少ないようでした。
その年の気候によっても差はありますがもう少し早い時期に訪問し山全体に広がる満開の椿も見てみたいです。
山の中を進んでいくと、ところどころですが椿畑には見たことが無い鉄の棒が張り巡らせています。
動物よけでもないし、いったい何でしょうか?何かの仕切り?
正解は...実はこれモノレールなんです。なじみがなく、見た時には全くわかりませんでした。
拾った種などを乗せて運搬することができ、傾斜のある所も軽々登れるようです。
ガソリンで動くモノレールは、利島で椿の種を拾う農家さんみんなで使用するため、使用した人がガソリンを満タンにしておくといったルールがあります。
種拾いはとても根気のいる作業で椿の種は茶色で石のようにも見える上、葉や木の枝に混ざり見えにくいです。
農家さんの数も減っていて今は40件の農家さんがほどしかおらず、高齢化が進み平均年齢が70才にもなっています。
ひとつひとつ落ちている椿の種を丁寧に拾っていき、お手製の網の前掛けに入れます。
小さな種も袋にたくさん入るとずっしりとして重さも感じられます。
試しに種を探してみましたが全く見つからず、見つけても中身のないものがあったりととても難しく感じました。
種を割って中身を見せてもらいました。
まるでナッツのようですが、このままだととても苦い成分が入っています。意を決し挑戦し、ひとなめしてみましたが思っていたよりも苦いうえに、その後しばらくは舌がビリビリしていました。
急いで水を飲みましたが全く効果もありません。
この種から約35%の油がとれるとの事です。
種の回収は1kg単位で行っているので一つ一つはとても小さく相当な数を集める必要があります。
種拾いを終えてもまだ作業があります。
種拾いの作業を行いやすくするために枝や落ち葉などを一ヶ所に集めていきます。
枝や葉を運んでいると時間がかかってしまいますが、燃やすことにより多くの落ちている葉や枝を一気に片づけることができます。
遠くから見ると作業をしている人がいるのがすぐにわかります。
島外の船から見ると温泉の煙かな?と勘違いされることもあるようです。
農家さん達が拾い集めた椿の種をそれぞれの農家さん家の軒下などで乾燥させて、こちらの工場に持ち込み採油を行っています。
農家さんごとに搾油は行われて椿油になってから買い取られる方式です。
椿の種を乾燥し、風の力で落ち葉や小枝、混ざった石などを除去し、搾油を行う前に処理を行います。
こちらの圧搾機で椿油と搾りかすに分けます。
この搾りかすは捨てずに倉庫で保管し、肥料として使われるため無駄がありません。
絞られた椿油は不純物を沈殿させる貯蔵タンクにまとめられた後、湯洗いや脱臭、脱色の行程を経て充填まで行われます。
こちらの機械は東京の助成を受けて導入したものになります。
クリーンルームで充填を行い発送されていきます。
ここの工場で搾油を含めた種から椿油になるまでの全ての行程が行われています。
こうして出来上がった椿油は島しょ農業協同組合の売店でも販売されています。
人の皮脂の主成分の一つであるオレイン酸がたっぷりな椿油は肌なじみがとてもよく、べたつかず、とても使用感が良いです。
落ちている種からも発芽はしますが、よりたくさんの油がとれる木を増やそうとビニールハウスにて苗づくりも行っています。
接ぎ木をしたり種から育てたりして大事に育てられますが、種を落とすようになるまで30年という長い年月を要します。
農業の縮小化という課題があり、椿産業が盛んな利島でも、現状は農家さんの戸数は少しずつ減ってきています。
しかし新しい苗などを育てていくことで島の伝統でもある椿産業を絶やさず次の世代へと受け継がれています。